「一般企業に就職するか、日本語教師になるか悩んでいます」という趣旨の悩みが多く見受けられます。
最終的な答えは本人が出すしかないのですが、最近、同じような悩みを身近な人に打ち明けられたので、その時どうお返事したのか理由も合わせて共有します。
①どちらを選択するのか、考え方
まずは、アドバイスする側ではなく、悩みを抱えている本人が自分の気持ちと向き合う必要があります。
「答えを他人に丸投げしてはいけませんよ」と言いたいのです。
難しい判断をするとき、他の人の意見に身を委ねたくなることもありますが、人生を左右させることなので、どんなに親しく全幅の信頼を寄せている相手でも判断を委ねてはいけません。
そこは自分を強く持ちましょう。
そして、気持ちに向き合うときは淡々とリストアップしてみるといいと思います。
1. なぜ一般企業/日本語教師を選択しようと思っているのか
→それぞれのメリット、デメリットを客観的に洗い出す
2. 主観的なメリット/デメリットを上げる
3. 理想の生活基準、最低限譲れない生活をリストアップする
4. 生活基準のリストアップに合わせて、一般企業と日本語教師を比べる(1〜3を参考にしながら)
この時点で例えば、理想の生活を得るために日本語教師では無理で一般企業だと妥協点はあれど叶えられそうだと分かったら、一般企業に進んだ方がいいと思います。
理想や夢だけでは生活できません。
将来的に日本語教師の選択をする未来が来るかもしれませんが、いったん一般企業に舵を切った方がいいと思います。
おそらくですが、この時にあがる理想の生活は「海外で豪遊生活」「何も仕事をしなくても毎月自由に湯水のようにお金使いたい放題」と考える人はいないのではないでしょうか。
もう少し現実的に「一人暮らしができる」「月給〇〇円は必須」「毎週大好きなカフェタイムは欠かせない」など、一般的な感覚での生活の内容であるはずです。
そのため、日常を維持するための生活基準が満たせないことが分かっているとしたら、その生活はストレスも溜まり「こんなはずじゃなかった」と、暗い気持ちになっていくでしょう。
それをも上回る「やりがい」があれば、大丈夫かもしれませんが、この段階ではそのやりがいは約束されていません。
職場の環境も、いいところに当たるかどうかはわかりません。
賭けに出るのは……よほどの余裕がないと難しいでしょう。
では、ここではまだどちらとも判断ができなかった場合です。
あなたか応募できる仕事があるのか、業界をリサーチしましょう。
正直、これは、先ほどの「気持ちと向き合う」より先にやってもいいと思います。
どういうことかというと、今現在の日本語教育業界はちょっと暗いです。
目指しているのであれば、業界に関して無知ではないと思いますが、留学生も技能実習生もEPA候補生も入国ができない現状で学生はいると思いますか?
綺麗事ではなく、日本語教育業界は年少者教育や生活者に対する日本語教育も含まれているとはいえ、大きなウエイトを占めているのは留学生です。
そこが完全に失われた状態で就職先が潤沢にあるとは言えないのです。
就職先がない、あっても学生が入らなければ半年後(いや、数ヶ月後)の学校運営は未知……という状態で仕事はできるのでしょうか。
ここで「就職先がない」となれば、どんなに希望しても日本語教師になるのは難しいです。
「でも、私なら大丈夫!」と思うかもしれませんね。
実際に求人は少ないとはいうものの出ていますし、思いの強い人は道が開けるかもしれません。
こう言った後に言うのはなんですが、気をつけてほしいのは「今出ている求人は本当に就職できるのか見極める」ことが重要です。
どう言うことかというと、今出ている求人は必ずしも今この瞬間に人がほしくて募集しているわけではないものが含まれるというトラップがあります。
今後、留学生の入国が再開したら人が必要になるため確保しておきたいが、それまでは待機していてほしい!という求人もあります。
求人サイトに掲載されているからといって、今すぐしっかり給料がもらえて授業も担当できる!と信じきってしまうと……ちょっと危険かもしれません。
気になる求人があれば、問い合わせをして確認してみたほうがいいと思います。
(確認したからといって選考に不利になることはありません。もし、そんなところがあったら、こちらから見切りをつけたほうがいいでしょう)
さて、挑戦するのは自由ですが、生活の保障があるかどうかは重要です。
冷静に自分の状況を判断してください。
例えば、しばらくは失敗したとしても親兄弟、家族など頼れる、助けてくれるアテがある。
半年間は稼げなくても生活に支障が出ないだけの生活防衛ができている。
〇〇のスキルや資格があるため、転職となってもすぐに職に就ける。など、個人で考える生活の保障があれば気持ち的にも挑戦しやすくなるでしょう。
ただ、保障があったとしても、一般企業であれ日本語教育業界であれ、就職先がありそうなのかどうかは確認しましょう。
このコロナ禍、転職も簡単ではないようですので……
②私の知人が出した答え
知人は保育業界からの転職を希望していました。
大変なお仕事ですよね。子供はかわいいだけではないでしょうし、保護者の対応もあります。
結局、知人は「今は日本語教育への転職はしない」と答えを出したそうです。
とはいえ、日本語教師に憧れてやってみたいという気持ちは変わらないとのことで、まずは養成講座に通うとのことでした。
(まだ資格を一つも持っていないとのことで、いずれにしてもすぐに転職はできなかったんですね)
養成講座終了時に動き出せる状況に自分も世の中も変わっていることを願って、今は準備の期間にするそうです。
また、「最短で!!!」としか考えていないと話していましたが、最短にこだわらずもう少し時間をかけてみようかと思うとも言っていました。
確かに今は「すぐに!」と焦らなくてもいいかもしれません。
やっと国費留学生の一部が入国できるようになりましたが、この知人に想定される最初の学習者が国費留学生になる可能性は低いので。
ここで、私がもう一つ気になるのは、「公認日本語教師」です。
こんな状況ですし、話そのものが頓挫する可能性もありますし、気がついたら新設の話が水面下でこのままジワジワ進む可能性もあります。
現時点で、新設された場合に現行の資格がどこまで効力を発揮するのかはわかりません。
日本語教師の資格をきちんと取得しているという点で、「公認日本語教師」も「現行の日本語教師」も優劣はないと考えますが、この公認を前提に資格取得を考えている人はアンテナを張って情報収集を続けましょう。
③日本語教師は転職市場でアピールできるのか
日本語教師から他への転職も考えてみます。
今は業界がこんな感じなので、日本語教師の仕事を辞めて転職を考える人が多くなたように感じます。
当たり前といえばそうですよね。
来月の雇用の保証がない、仕事がない(もしくは非常勤をクビにしたため、異常な業務量がのしかかっている)、授業が全く担当できず希望の業務内容とかけ離れている……など、現状は過酷です。
仕事があってもなくても過酷です。
ただ、個人的には日本語教師から他への転職は少し難しく感じます。
日本語教師も社会人ですし、専門職ですし、転職の際にうまくアピールできるかどうかは個人によるというのはどこの業界でも変わらない事実です。
では、なぜ「難しく感じる」というのか。
日本語教師は、非母語話者に対しての日本語教育を専門とし、その専門性は確かにありますが……その専門性がそのまま生かされる他の職業がそれほど多くないのです。
例えば、事務職に転職を考えたとします。
事務なので、ワード・エクセルの操作ができる人が求められそうですね。
日本語教師はコロナ禍でオンラインも導入されましたが、それまではアナログでパソコンを触ったことなくても問題ない職業でした。
オンラインが導入されたからといって、ワードやエクセルを多様しなくても仕事はできます。
そのため、これらのツールを使わない人は事務職に必要なスキルが高いと言い切れないのです。
転職だと、新卒採用とは違って「即戦力」を期待する傾向があるのではないでしょうか。
そこに「私は素人です」と入っていくと……採用を勝ち取るのは難しいですよね。
営業職だとしても、決まった相手と話す、教科書をわかりやすく活用して授業を行うことは得意でも、何もないところから新規契約を獲得するような営業とはわけが違います。
それを仕事として行うのは簡単なことではないでしょう。
さらに、日本語教師が正しく認知されていない現実もあります。
日本語教師だと名乗ったら、「私も日本語話せるからなれそう」という類のことを言われたことがある日本語教師は思いのほか多くいるのではないでしょうか。
私は何度も言われてきました。全く、失礼な話ですが、本気でそう思っている人もいるのです。
「ボランティアや第二の人生的なお年寄りの仕事らしいね」と言われたこともあります。
なんて事言ってくれてんだ!とは思いますが、そのように養成講座の受講生を集める学校があったことも事実です。
そんな影響もあってか、日本語教師を仕事として認知していない人がいるのも事実です。
こんな背景もあってか、「日本語教師の経験だけ」をそのまま生かして転職しようとすると、転職市場では「スキルがない人」になりかねません。
そのため、転職市場では動きづらくなってしまうのです。
かくいう私も「このまま転職活動をしても『これといったスキルもない年上新人』では採用してもらうのは簡単じゃないな」と思ってしまってなかなか動き出せないんですが。
それもあって、この状況下でも「留学生の入国再開したら仕事があるはずなんだけど」と日本語教師にこだわっているのかもしれません。
そう考えると、私は他に就職ができるのであれば、ほかので就職を優先して日本語教師は転職後の仕事でもいいのかなと思います。
一般企業だと、新人教育もきちんとしているところが多いですし、いろいろな業務を包括的に経験させてもらえる可能性が高いです。(あくまで日本語教師よりは)
日本語教師は今までの経験が全て、本当に全て生かせる仕事です。
日本での就職を希望する人が学習者だったら、会社での日本語だけではなく会社の文化みたいなものも理解していないと、授業にいかせません。
飲み会のマナーや仕事中の声のかけ方、万が一遅刻するときはどんな連絡手段で内容はどうするのか。
もちろん、そのような内容の本もありますが、学習者は本だけではなく実際の経験からの話を聞きたいのです。
私は若い日本語教師もたくさん業界に入ってきてほしいですが、「他の仕事の経験→日本語教師」と「日本語教師→他の仕事」の転職の順番を考えると、前者の方がスムーズであることが多く見受けられる印象です。
特に現状を鑑みると、日本語教師はいつからでもスタートできる仕事なので、焦らなくてもいいというのが本音です。
これは定年にも関わってくると思いますが、一般企業の場合は、ある年齢で定年を迎えると基本的には「定年退職」となりますよね。
仕事の内容によっては同じ仕事での再雇用がない場合もあります。
でも、日本語教師は前述の「第二の人生に!」と講座受講生を募集する養成講座があることからも想像できる通り、定年後でも働ける環境があります。
学校の判断になるので、働けない学校も当然ありますが、働ける学校がたくさんあるのは事実です。
自分の老後も環境が変わっていないとは言い切れませんので、何十年後も同じだとはいいきれませんが。
今までの経験全てが教える糧となり、事実上定年退職もない。
④副業としてはどうか
昨今、当たり前になってきている「副業」としては日本語教師はどうなのか。
きっと考えたことがある人もいますよね。
まず、学校で教える場合ですが、副業であれ、本業であれ、学校に所属するとなると、通勤・授業準備・引き継ぎなどもあるので時間的な都合がつくかが判断の鍵になると思います。
授業外の時間に事実上の拘束時間がある場合も多くあります。
例えば、ミーティングや研修が含まれるでしょう。
参加しなくて済むものばかりとはいかないので、自分の生活に合うかどうかの判断が必要です。
一方でオンラインなど、個人で教える方法もあります。
オンラインの場合は日本語教師の資格さえもいらない場合もあるので、ネット環境・授業環境さえ整えられるのであれば、学校に所属するよりも参入しやすい印象ですね。
ただ、ここで問題になるのは、既存のプラットフォームはすでに日本語教師が溢れかえっているという現状があります。
飽和状態にあるところに参入して新規の学生さんを獲得していく必要があります。
オンラインの登録企業が学生を「この人を担当してください」と振ってくれるところもあります。
自分で獲得するのが難しい場合は、このような場所を頼りにした方が賢明かもしれません。
いずれの場合も、オンラインで日本語のレッスンをしようとすると驚くほど金額が安くなることが散見されます。
正直、「馬鹿にしてるのか!!!」と叫びたくなるような金額を提示されたり、自分がそのような金額を提示しないと学生が獲得できない場合が多くあります。
日本語教師は、学校に所属したとしても、オンラインで個人で学生を獲得したとしても、授業準備をする必要があります。
授業準備は永遠と終わらせられないくらいやることがたくさんあります。(それではいけないので、どこかで終わりにしますが)
単純にレッスンをしている時間だけで授業金額を設定してはいけません。
前後の授業時間以外の仕事を加味して金額を正しく設定する必要があります。
余談ですが、英語教師・フランス語教師・ドイツ語教師など各種外国語の講師のレッスン料金の設定と日本語教師の金額設定を比較すると、日本語教師は圧倒的に安い傾向にあります。
このコロナ禍、目減りしていく残高に頭を抱える人も多いでしょう。
だからこそ、どうにかできないかと模索している人も多いでしょう。
(書き連ねている私もその1人です)
日本語教師になることが自分を救う一歩になればいいですが、窮地に追い込む可能性も排除しないで欲しいと思います。
日本語教師になることを選んでも、離れることを選んでも、今は他の道へ行くことにしたとしても、まずは、このどうしようもないコロナ禍を生き抜く選択につながりますように。